プライバシーポリシーの作成を生成AIに任せることの落とし穴

生成AIが広く普及する中、ビジネスの現場でもChatGPTをはじめとするAIツールが活用される機会が増えています。ブログ記事の作成や商品説明文、メールの下書きなど、多くの場面でその利便性は疑いようがありません。

では、プライバシーポリシーのような文書の作成までもAIに任せてよいのでしょうか?

個人事業だったり、従業員数の少ない小規模企業であれば、自社内での作成も難しく、また専門家に依頼するほどの余裕もないため、AIでそれっぽい文書を作成できれば良い、と考えるかもしれません。

しかし、結論から言えば、AIによる文書生成はあくまで「補助的な手段」にとどめるべきです。

文書としての見た目は整っていたとしても、そこには見逃せないリスクが潜んでいたり、お客様に対する誠実性や法的責任の観点からは無視できない問題が存在するおそれがあります。

「正しそうに見える」ことと、「正しいこと」は別物

ChatGPTなどの生成AIが出力する文章は、非常に自然でわかりやすく見えるため、一見すると「しっかり書かれている」と感じてしまいます。しかし、AIはその仕組み上、本質的に情報の“意味”や“法的な正確性”を理解しているわけではありません

そのため、法律上求められる記載事項が抜けていたり、学習元とした古い法制度に基づいた記述が含まれていたりすることも珍しくありません。さらに、自社の実際のサービス内容やデータの取り扱い方法に合致していない内容が含まれることもあります。

つまり、「ちゃんとしてそうに見える文書」が、実際には機能していないという危険があるのです。

自社の運用とずれている可能性

AIは自社のシステム構成や、実際に取得している個人情報の範囲を知ることができません。

たとえば、

  • 会員登録時にメールアドレスを取得しているのか
  • Cookieやトラッキングツールを利用しているか
  • 第三者のサービスとデータを連携しているか

こういった実務的な情報を入力しなければ、AIは正しい記述を行うことができません。しかも、たとえ情報を丁寧に与えたとしても、AIがそれを正確に法的文脈に落とし込めるとは限らないのが現実です。

AIは「最新の法改正」に追いついていないことがある

ChatGPTなどの生成AIは、学習時点での情報をもとに応答を生成します。つまり、法改正やガイドライン更新への対応が常に最新とは限りません

近年の個人情報保護法の改正、Cookie同意に関する実務指針、外部送信規律の強化など、法令の変化は速く、複雑化しています。

AIによって生成された文書が古いルールをもとに書かれていた場合、それに気づかず掲載してしまうと、法令違反とされるリスクもあります。

また、仮に最新の法令を追加学習させようとしても、具体的にどの文書を学習させれば最新かつ最適なものとなるのか、法知識を十分に有する者でなければ判断するのは難しいのではないでしょうか。

お客様に対して「誠実」な態度とは言えるか?

そして何より企業運営をする上で無視できないのが、その企業を信頼して個人情報を提供するお客様に対する誠実性です。

たとえAIが作った文章が「一見よくできている」ように見えても、実態に即していない文書を掲出することは、お客様に対して誠実な対応といえるでしょうか?

プライバシーポリシーは、企業がどのようにお客様の大切な個人情報を扱うのかを明示する、いわば「信頼の宣言書」です。
にもかかわらず、面倒だからといって機械(生成AI)任せにして、実態とは異なる内容や曖昧な表現をそのまま掲載してしまうと、信頼を損なうだけでなく、トラブル発生時には「誠実な説明義務を果たしていなかった」あるいは「虚偽の内容だ」として不利になる可能性すらあります

お客様との信頼関係を築くうえでも、「それっぽい文書をとりあえず掲出しておけばいい」という発想は、企業姿勢として疑問を抱かれてしまうかもしれません。

最終的な判断は人間にしかできない

生成AIに出力させた文書をそのまま利用するのではなく、出力されたものを「たたき台」として使うのは、一からプライバシーポリシーを作るよりは確かに効率的な方法だと言えます。

しかし、その内容が

  • 法的に適切か
  • 自社のサービス内容と一致しているか
  • 最新のガイドラインに沿っているか
  • お客様に対して誠実か

といった点について、最終的に確認し、修正・調整できるのは人間しかいません。とくに専門知識が求められる部分では、法律のプロによるレビューや作成を依頼するのが安全です。

「AIだから安心」ではなく、「AIだから確認が必要」

生成AIは非常に優秀なツールです。しかし、その能力はあくまで「文章を整える」ものであり、「内容の正しさを保証する」ものではありません。

とりわけ、プライバシーポリシーのように法的な文書であり、顧客との信頼構築にも関わる重要なものにおいては、生成AI任せでは不十分です。

AIが生成した内容を最後にチェックし、必要に応じて修正するのは、企業としての責任です。
「それっぽいけど実態に合わない文書」を掲出することは、お客様に対して不誠実な対応になりかねません。

「AIだから大丈夫」ではなく、「AIだからこそ、最後は人間が判断しなければならない」という視点を持ち、誠実な情報公開を心がけましょう。