取得した個人情報を加工することで利用の幅を広げることができるものとして、別の記事で「匿名加工情報」について紹介しましたが、同様に個人情報に対して一定の加工を施すことで利用の幅を広げることができる情報があります。
それが「仮名加工情報」です。

仮名加工情報のメリット
加工によって作成される、他の情報と照合しない限り特定の個人を識別することができない情報であるため、通常の個人情報とは異なり、適用されるルールが少し緩和されます。
主なものとしては「利用目的の変更に関する制限」が挙げられます。
個人情報であれば「変更前の利用目的と関連性を有すると合理的に認められる範囲」に限って利用目的を変更でき、また変更した場合は本人への通知・公表義務がありますが、仮名加工情報の場合は自由に利用目的を変更することができ、また変更後の利用目的は公表すれば大丈夫です。
また、仮名加工情報や、仮名加工情報である個人データ・保有個人データについては、開示や利用停止・削除等の請求や利用目的の公表等に関する法の規定は適用されません。
さらに、加工することによって他の情報と照合することができなくなった仮名加工情報(後述する「個人情報ではない仮名加工情報」)であれば、もはや個人情報ではなくなるため、利用目的の変更だけに限らず、利用目的の制限を受けずに利用することができます。(ただし原則として第三者への提供や、後述する識別行為等は禁止されます)
なお、仮名加工情報については、原則として第三者提供は認められていません(法41条6項)が、ただ通常の個人データと同様に第三者への委託・事業の承継・共同利用は認められています。
そのため、特に個人情報を取得した時点では共同利用を考えていなかったり、利用目的が限定的であったような場合でも、仮名加工情報として作成することで先述の通り利用目的が柔軟に設定できるため、他者との共同利用がやりやすくなる点が大きなメリットといえます。
加工する場合のルール
個人情報から仮名加工情報を作成する上での加工処理については、定められている加工基準(規則31条)に従って行う必要があります。
- 特定の個人を識別できる記述等の全部または一部を削除
- 個人識別符号の全部を削除
- 不正に利用されることにより財産的被害が生じるおそれがある記述等を削除(クレジットカード番号やウェブサービスのID・パスワードなど)
例えばとある事業者が次のような会員データベース(DB1)を保有しているとします。
※「個人情報テストデータジェネレーター」を使用して出力した情報を加工したもので、実在する個人とは一切関係ありません
ID | 氏名 | 生年月日 | 住所 | 血液型 |
---|---|---|---|---|
1 | 小野 ゆかり | 1956年07月16日 | 東京都港区港南33-5-3 | O |
2 | 後閑 明美 | 1953年06月18日 | 福岡県福岡市東博多区78-34-607 | A |
3 | 金 康宏 | 2023年01月15日 | 石川県金沢市北東安江12-92-246 | B |
この情報を元に仮名加工情報を作成する場合は、特定の個人を識別できる情報である「氏名」を削除(または他の情報に置き換え)することになります。
ID | 氏名 | 生年月日 | 住所 | 血液型 |
---|---|---|---|---|
1 | 1956年07月16日 | 東京都港区港南33-5-3 | O | |
2 | 1953年06月18日 | 福岡県福岡市東博多区78-34-607 | A | |
3 | 2023年01月15日 | 石川県金沢市北東安江12-92-246 | B |
このように加工されたDB2が仮名加工情報です。
個人情報でもある仮名加工情報
なお、元となったDB1が削除されず残る場合、DB1とDB2の両方に存在する「ID」や「住所」情報で紐付けることで個人を識別することができる状態(容易照合性)ですので、DB2は仮名加工情報であると同時に個人情報でもあるといえます。
※このように容易照合性が残っていても構わない点が、匿名加工情報との大きな違いです
よって、個人情報・個人データ・保有個人データに関する法の規定が適用されることに加えて仮名加工情報に対する作成・取扱いルールが適用されますが、その一方で仮名加工情報であるとして利用目的の変更に関してはルールが緩和されます。
個人情報ではない仮名加工情報
上記の例とは別に、DB1から仮名加工情報であるDB2を作成した後、DB1を削除した場合は、本人を識別することができなくなる、つまり容易照合性が失われるため、DB2は仮名加工情報であって、個人情報ではないものとなります。
この場合は、仮名加工情報に対する作成・取扱いルールだけが適用されます。
作成・取扱におけるルール
仮名加工情報を作成したり、作成した仮名加工情報を取り扱う場合は、次のようなルールに従う必要があります。
(1)削除情報等に対する安全管理措置(法41条2項)
仮名加工情報を作成する際に削除した情報や加工の方法に関する情報(削除情報等)については、その漏えいを防止するための安全管理措置を講じる義務があります。
(2)第三者提供の禁止(法41条6項、42条1項・2項)
法令に基づく場合を除いて、原則として仮名加工情報である個人データを第三者に提供することは禁止されています。ただし、委託・事業の承継・共同利用の場合を除きます。
(3)安全管理措置(法42条3項、法23〜25条)
仮名加工情報である個人データの漏えい等を防止するための安全管理措置(従業者や委託先の監督も含みます)を講じる義務があります。
(4)識別行為の禁止(法41条7項、法42条3項)
仮名加工情報の作成の元となった個人情報の本人を識別する目的で、他の情報と照合することが禁止されています。
なお、匿名加工情報と同様に、照合してはならないのは”元の情報”ではなく”他の情報”である点も重要です。
(5)本人への連絡等の禁止(法41条8項、法42条3項)
仮名加工情報には電話番号や住所、メールアドレス、SNSアカウント情報などが含まれる場合がありますが、これらの情報を利用して本人に連絡することは禁止されています。
(6)苦情処理(法42条3項、法40条)
仮名加工情報の取扱いに関する苦情に対して、適切かつ迅速な処理に努めなければなりません。
(7)利用目的の公表(法41条4項、法21条)
個人情報である仮名加工情報を取得した場合や、利用目的の変更を行った場合は、原則として速やかにその利用目的を公表する必要があります。
なお、公表義務があるのは仮名加工情報を「取得」した場合ですので、自身が保有する個人情報を元に仮名加工情報を作成した場合は「取得」ではないため公表義務はありません。
※個人情報取得時の利用目的に「仮名加工情報を作成する」旨の記載がなかったとしても、仮名加工情報を作成することは可能です
※「法」とは個人情報保護法を意味します
※「規則」とは個人情報保護委員会規則を意味します
