個人情報や個人データについては、個人情報保護法によって様々な制限が設けられているため、これらを取得した事業者にとっては、せっかく取得したのに十分に活用できないということもあります。
そのため、一定の加工をすることにより本人を特定することができないように加工することで、利用の幅を広げるための規定が存在します。
その中の1つが「匿名加工情報」です。

匿名加工情報のメリット
そもそも匿名加工情報は、個人情報ではないものに加工することで自由に利活用させるために設けられたものであるため、個人情報でも個人データでもない以上、利用目的に関する制限がありません。
また、本人を識別することができない情報であるため、元となった個人情報における本人の同意を得る必要がなく、自由に第三者提供することも可能です。
加工する場合のルール
このように自由に利用できるようにする反面、その加工や作成などに関してルールが設けられています。
匿名加工情報というのは、ゼロからそれ単体で作成されるものではなく、個人情報を加工することで作成されるものであるため、加工後のものは個人情報ではないものにしなければなりません。
そのため、この加工処理については下記の加工基準(規則34条)が設けられており、この基準に従って個人情報を加工しなければなりません。
- 特定の個人を識別できる記述等の全部または一部を削除
- 個人識別符号の全部を削除
- 個人情報と連結できる符号を削除
- 特異な記述等を削除(例えば「江東区在住の120歳」という情報は特定の個人を識別できる可能性は十分あるため、このような情報を削除したり「90歳以上」などに丸める必要がある)
- 上記の他、個人情報データベース等の性質を踏まえてその他適切な措置を講ずる
簡単に言えば、情報から直接特定の個人を識別できなくするだけでなく、他の情報と容易に照合することもできないようにする(=「容易照合性」を失わせる)必要があります。
例えばとある事業者が次のような会員データベースと購入履歴データベースを保有しているとします。
※「個人情報テストデータジェネレーター」を使用して出力した情報を加工したもので、実在する個人とは一切関係ありません
ID | 氏名 | 生年月日 | 住所 | 血液型 |
---|---|---|---|---|
1 | 小野 ゆかり | 1956年07月16日 | 東京都港区港南33-5-3 | O |
2 | 後閑 明美 | 1953年06月18日 | 福岡県福岡市東博多区78-34-607 | A |
3 | 金 康宏 | 2023年01月15日 | 石川県金沢市北東安江12-92-246 | B |
ID | 配送先 | 購入商品 | 購入金額 |
---|---|---|---|
1 | 東京都港区港南33-5-3 | 雑誌 | 2000 |
2 | 福岡県福岡市東博多区78-34-607 | 衣類 | 8760 |
3 | 石川県金沢市北東安江12-92-246 | パソコン | 189000 |
購入履歴データベースから匿名加工情報を作成しようとする場合、このままでは「ID」情報から会員データベースと容易に照合することができることにより個人を特定することができるため、まずは「ID」の情報を削除する必要があります。
ID | 配送先 | 購入商品 | 購入金額 |
---|---|---|---|
東京都港区港南33-5-3 | 雑誌 | 2000 | |
福岡県福岡市東博多区78-34-607 | 衣類 | 8760 | |
石川県金沢市北東安江12-92-246 | パソコン | 189000 |
これによって一見「容易照合性」が失われているようにも見えますが、しかし実際には「配送先」と「住所」を紐付けることで、個人を特定することができる可能性があります。
そのため、配送先情報を削除するか、または地域名に変えるなどの加工が必要になってきます。
ID | 配送先 | 購入商品 | 購入金額 |
---|---|---|---|
関東 | 雑誌 | 2000 | |
九州 | 衣類 | 8760 | |
北陸 | パソコン | 189000 |
ここまで加工してはじめて「匿名加工情報」になります。
作成・取扱いにおけるルール
上記基準に従って加工することで匿名加工情報を作成したり、作成した匿名加工情報を取り扱う場合には、個人情報から匿名加工情報を作成した事業者(個人情報取扱事業者)と、その事業者から匿名加工情報の提供を受けた事業者(匿名加工情報取扱事業者)のそれぞれに対してルールが定められています。
(1)加工方法等情報の安全管理措置(法43条2項)
まず匿名加工情報を作成した個人情報取扱事業者は、元となった個人情報から削除した項目や加工の方法に関する情報など、元の個人情報を復元できてしまう情報について安全管理措置を講じる義務があります。
(2)作成された匿名加工情報に対する安全管理措置(法43条6項、法46条)
個人情報取扱事業者も匿名加工情報取扱事業者も、匿名加工情報の適正な取扱いを確保するために必要な措置を講じて、その措置の内容を公表する努力義務が定められています。
(1)の安全管理措置は義務ですが、この(2)については、そもそも匿名加工情報からは本人を特定することができないため、努力義務に止まっています。
(3)作成時の公表(法43条3項、規則36条)
個人情報取扱事業者は、匿名加工情報を作成したとき(=個人情報を加工する作業が完了したとき)は、その匿名加工情報に含まれる個人に関する情報の項目を公表する義務があります。
例えば先述の「ID情報を削除し配送先情報を変更後の購入履歴データベース」を内容とする匿名加工情報を作成したときは、公表する必要がある項目は「購入者の地域」「購入商品」「購入金額」となります。
また、個人に関する情報の項目が同じであり、同じ手法で継続的に作成する場合は、最初に公表する際に作成期間や継続的な作成を予定している旨を明記することで、2回目以降の公表を割愛することができます。
(4) 第三者提供(法43条4項、法44条等)
個人情報とは異なり、匿名加工情報には第三者提供を制限する規定がないため、本人の同意などを得る必要がなく自由に第三者に提供することができます。
ただし、あらかじめ「第三者に提供する匿名加工情報に含まれる個人に関する情報の項目」と「匿名加工情報の提供の方法」を公表しなければならず、また提供先の第三者に対して、提供する情報が匿名加工情報であることを明示しなければなりません。
そのため、例えば先述の「ID情報を削除し配送先情報を変更後の購入履歴データベース」を内容とする匿名加工情報を自己のウェブサイトで一般公開する場合は、以下のように表示することが考えられます。
当社ショップにおける○○年△△月購入履歴情報(PDF)のダウンロードはこちら
・含まれる項目:「購入者の地域」「購入商品」「購入金額」
・ダウンロードできる情報はショップ購入履歴から作成した匿名加工情報です
(4) 識別行為の禁止(法43条5項、法45条)
匿名加工情報を作成した事業者は、その匿名加工情報の作成の元となった個人情報の本人を識別する目的で他の情報と照合してはなりません。
また、匿名加工情報取扱事業者は、個人情報から削除された項目や加工方法の情報を取得したり、本人を識別するために他の情報と照合してはなりません。
なお、照合してはならないのは”元の情報”ではなく”他の情報”という点は要注意です。これは、たとえ匿名加工情報作成の元となった情報ではなくても、照合することで結果的に本人を識別できてしまうことがあり得るためです。
ただし、他の情報と照合してはならないのは「本人を識別するため」という目的がある場合ですので、その目的がない場合、例えば複数の匿名加工情報を組み合わせて統計情報を作成するといった目的であれば、他の情報(他の匿名加工情報)と照合することは問題ありません。
※「法」とは個人情報保護法を意味します
※「規則」とは個人情報保護委員会規則を意味します
